そこそこ、を目指して ~うつだけど前を向きたい~

生きることを頑張れなくなってしまいました。でもぎりぎり生きています。

世界でいちばん

私にひとつものを与えて、ほかの全てを奪った私の世界の中心だった人。

真っ暗な夜の海に、ちっさくてまだ右も左も分からない時に私を放した貴女。
アナタは大丈夫よって言い聞かせて泳がせていた貴女は、舟の上から浮き輪も渡さず見てるだけ。
途中から舟に乗ることすらしなくなって、私の視界からいなくなった。

気が向くと貴女の手で陸に上げられたりしたけれど、もうそこでは私は息の仕方すら分からなくなってた。
それに、貴女は別に陸にいても褒めてくれなかったからすぐに海に戻った。
必死に足掻いてもがくのを自分のせいにされたくなかったのだと気づいたのはずっとずっと後だった。

それでも、途中の記録ポイントにはしっかりいて頑張れって言われてる私を見てふんぞり返る貴女を見て私は誇らしかった。
貴女の視界には確かに私がいると分かって、貴女の自慢だと思えるのが幸せだった。
私はきっと一生こうやって生きるのだと、信じていた。

でも、暗い海は広かった。

鯨のようなのんびりした動きで私よりもずっと早く泳げる人が現れたり
イルカのような美しい動きで人を魅了する人が現れたり
鮫のように、人々を喰らい尽くすような迫力をもつ人が現れたり

私はただの人間で、絶対に適うことなどないのだと思い知らされた。
暗い海からはいつそんな人が出てくるかなんて分からないから、いつもビクビクしてた。
助けてって貴女にいったら、アナタは大丈夫って言われた。

だから、大丈夫だと信じることにしたの。
私がもっと上手に海を泳げるって貴女が信じてくれているって思ったから。
そしたらきっと、また舟に乗って私にアナタは大丈夫って言い続けてくれるって思ったんだよ。

まさか私の足に重石を載せるなんて聞いてなかった。
こんな暗くて深い海を泳ぐのに、重石なんてつけられたら死んでしまうのに。
嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘

いやだ、やめてよ

気がついた時には、もう海の底に身体が沈んだあとだった。
貴女はずっと海の上。私の姿など見えるはずもなく。
心配なのよ、どうか探してと周りの人に頼む姿が見えた。

私、貴女の真下にいるよ。
息ができなくて苦しいよ。
お願い、助けて。

その願いは粉々に砕け散った。
私は無理だと誰かに押し付けられたのを見て、私はその程度だったのかと更に砂の中に沈んだ。
もう、息をすることなど二度としないと誓った時。

泳げもしないくせに潜ってきた人が重石を外してくれた。
嬉しかったけど悲しかった。
貴女じゃなかったから。

私は、貴女に選んで欲しかったのに
貴女に、泳げなくてもいいから息をしてって言って欲しかったよ
世界で一番、貴女に愛されたのは私だって思っていたかった

貴女が、世界でいちばん
大切で、大好きで、好きって言って欲しい存在だった
もう、駄目なんだって何度も裏切られて思い知った

でも私は海に戻るのでしょう。
もう夜が明けてしばらく経って、この海がどれだけ美しいのか隅々まで見たいって思ったから。
イルカの先生が海の楽しみ方を教えてくれて、鯨の先生が海の煌めきを教えてくれたのを思い出したりしたから、今楽しくて仕方ないよ。

もう目標とかただひたすら海を泳ぐことは出来ないから、まだ浮かんでいこうとしてる途中だけど絶対にまた泳ぎはじめるから。

貴女が導いてくれたこの海を、もっともっと上手に泳げるようになるよ。

ありがとうって思えるようになりたいって思うから、今はまだ思えないけれど頑張ってみる。