そこそこ、を目指して ~うつだけど前を向きたい~

生きることを頑張れなくなってしまいました。でもぎりぎり生きています。

博士の愛した数式

 

博士の愛した数式は、実写映画化されている、小川洋子さんのベストセラー小説です。

 

短く読みやすいため、とても手に取りやすい作品の1つではないでしょうか。

決まった時間しか記憶を保てない数学学者の「博士」と家政婦としてやってきた「私」そしてその息子、頭が平たいから「ルート」の3人が主な登場人物です。

文章は温かく、やさしいのですがそこに描かれている人々の言動や感情はあまりにもリアルでどきっとする描写も少なくありません。

 

十数年前から更新されることのない記憶の中で、確かに年を重ねなくてはいけない恐怖と残酷さを自分の専門である数学のなかに溺れることで誤魔化し続けてきた博士。

自分は何一つ覚えていないのに確かに日々を生きていることを実感せざるを得ない。

そんな日々に不躾に踏み込む家政婦は、今まで誰も決して理解などしようともしなかった博士の世界に首を突っ込んできて美しさに溜息を漏らし否定することなく、ただただ一生懸命理解したいと奮闘するのです。

 

博士の1番素敵なところとして描かれているのは家政婦の息子ルートへの無償の愛情。

こどもは、誰からでも一番に愛されて当然であるという前提が博士の不器用だけど優しいところがとても鮮やかに描かれてずっと読者の心に残っている。

記憶が更新されない代わりに、心の中はずっとずっと変わらず美しいまま。

 

そんな博士と共に家政婦とルートの奇妙な関係が誰よりも何よりも愛しくて堪らなくなる。